フリーランス編集者・ライターの山田剛久(やまだ たけひさ)のクルマと模型・ミニチュアなどに関する四方山話(よもやまばなし)後編をお届けします。
筆者の愛車、1969年式メイヤーズ・マンクス・バギー。
■バギーの時代
前回アーケード・ゲーム「ミニドライブ」や遊園地の遊具のゴーカートについての想い出を書きましたが、その時期からしばしあって小学校・低学年頃になると、映画、テレビ・ドラマやCM、雑誌のグラビアや広告などに奇妙なクルマが登場するようになりました。
クラシックカーか、はたまたホットロッドか、新しいような古めかしいような…?
そう!それが所謂デューン・バギーだったのです。
実際に田舎の公道で見かけることは皆無でしたが、プラモデルやミニチュアカーの世界でもバギーは数多く題材に選ばれ、もはやバギーを好きになるな、という方が無理な状況だったと思います。
もちろん私も完全にノックアウトされたクチで、父親から「VWのシャシーとエンジンを使ったカスタムカー」だと説明されるや、その気持ちは更に過熱しました。
元来VWビートルが好きだった所に、それをカッコ良くカスタムしたクルマとなれば、当時の自分にとっては究極的なバリューを備えたものであり、露出したエンジン、コクピット、バケットシートなどのディテールからは、ゴーカートと相通ずるシンプルかつスパルタンな魅力を感じていたのだと思います。
1969~1970年頃、内外の自動車雑誌はデューン・バギー特集百花繚乱であった。
■バギーコレクション
そんなわけで当時からデューン・バギーの模型やミニチュアも様々に組み立てたり収集したりしてきましたので、ここからはお気に入りをご覧に入れます。
VOLKSWAGEN BUGGY●タミヤ1/18
タミヤ1/18チャレンジャーシリーズNo.7の「フォルクスワーゲン・バギー」VWチューナーEMPIがリリースした「EMPI imp(エンピ・インプ)」を題材にしたもので、当時発売されたバギープラモの中では最高の内容。ヤナセが試験的に輸入した車輌を取材したらしくYANASEのデカールも付属しています。
EMPI imp●REVELL 1/25
先のタミヤと同じくアメリカ西海岸のプラモデルメーカー「レベル」も「EMPI imp(エンピ・インプ)」をアメリカの標準である1/25スケールでキット化。バーガンディっぽいキャンディレッドの成型色と花柄、EMPI、Revellのロゴ・デカールなど、カリフォルニア産キットの魅力に溢れています。1970年初版。
MEYERS MANX●AMT 1/25
ブルース・メイヤーズが開発+プロデュースし、世界中で大ヒット、数多くのフォロワーを生んだ市販デューン・バギーの元祖「MEYERS MANX(メイヤーズ・マンクス)」はデトロイトに近いアメリカ中西部のプラモメーカー「AMT」が1/25でキット化。カスタムパーツが付属する楽しい内容。1969年初版。
GLITTER BUG●REVELL 1/25
ディフォルメ系モーター・カートゥーンの元祖であるデイブ・ディール画伯がデザインや箱絵・組立図のイラストを手懸けたレベル社「ディールス・ホイール(Deal’s Wheels)」シリーズでも最初期にデューン・バギー(メイヤーズ・マンクス)が題材に選ばれています。
これはその日本版(グンゼ版・1973年)。
DUNE RAT●MONOGRAM / MATTEL
当時マテル社の傘下に入ったモノグラム社もカスタムカー・デザイナー、トム・ダニエルがデザインした躍動感溢れるディフォルメ・キットをシリーズ展開。多くは再販されていますが、メイヤーズ・マンクスにネズミの尻尾を生やしたこの「デューン・ラット」は何故か再販されない稀少な1台(1970年初版)。
BAN BAN BUGGY●サニー
レベル社の「ディールス・ホイール」シリーズが如何に同時期以降の模型及び玩具業界に大きな影響を与えたかを顕著に示す例の1つ。日本の「サニー」製ディフォルメ・シリーズの「バンバンバギー」。これもボディ形状はメイヤーズ・マンクス系の比較的小型のデューン・バギーがモチーフと思われます。
EMPI imp●REVELL 1/25
先にご紹介したレベル製Empi impのプラモデル金型を流用して同社がスロットカー仕立てとした完成モデル。ボディはポリプロピレン製でメタルフレーク入りのクリアグリーン成型色。写真の個体はウインドスクリーンを装着、ディテール塗装、デカール貼付、タイヤ・ホイール交換など、手を加えたもの。
EMPI imp●REVELL 1/25
こちらは上のレベル製Empi impスロットカーの色違いで、メタルフレークのクリアオレンジ成型色。先のものとは異なり、完全にオリジナル・コンディションを維持した個体です。元来は上のクリアグリーンもこのクリアオレンジも、スロットレーシングのホームコースにセットされていたモデルです。
DUNE BUGGY●COX 1/10
当時のカリフォルニアを代表する模型メーカー、COX(コックス)社が発売したメイヤーズ・マンクスの.049ccエンジンカーです。このモデルは成型色の変更や機関の改良で20年近く売れ続けたロングセラーですが、写真の個体は黒地に黄文字のカリフォルニアナンバーからわかるように初期(1969年頃)の仕様。
SURF BUGGY●TESTORS 1/10
当時のCOXはある意味出来過ぎでしたから、本当の意味でアメリカ的なのは寧ろTESTORS(テスター)のような模型メーカーだったかも知れません。これは1970年代半ばにテスターが発売した.049ccエンジンカーでアンフィキャットのようなボディがユニークな1台。COXバギーよりも一回り大きなサイズ。
KAPUTT BUGGY●POLITOYS 1/25
先にご紹介したレベル社「ディールス・ホイール(Deal’s Wheels)」シリーズ「グリッター・バグ」をイタリアのミニチュアカー・メーカー「ポリトイズ」がダイキャスト・モデル化したもの。
プラモデル版とはディテールが一部異なる他、タイヤがソリッドゴムとなり、サスペンション・ギミックを備えます。
BAG-BUG●POLISTIL / KINGPLAST 1/8
上でご紹介した「ポリトイズ」版の「グリッター・バグ」= KAPUTT BUGGYですが、随分売れたのか、それをプラスチック・ボディに改めて電動リモコンした仕様も存在します。そしてさらに調子づいてそれを巨大化してしまった…のがこれ。脇に置いたビートルが通常サイズのディールス・ホイールです。
GP BUGGY, DUNE BUGGY●CORGI / ZYLMEX
親しみやすい小スケール・ダイキャストでも多くのデューン・バギーが発売されていました。左から「コーギー・ロケット(Corgi Rockets)」と「Corgi Junior」のGP Buggy。そして「ジルメックス(Zlymex)」のデューン・バギーと、そのホイールを巨大化した「クレイジーホイール(Crazy Wheels)」の同車種です。
■とうとう実車デューン・バギーを買う
というわけで、バギーへの憧憬はこの珍妙なコレクションでご理解頂けたと思うのですが、数年前の冬、私は遂に実車のバギーを買うことを決意しました。
切っ掛けとなったのは、父親が亡くなったことだったかも知れません。既に55歳になっていましたので、きちんと体が動く内に子供の頃に憧れたクルマに乗っておこうと思ったのです。
幸い私が憧れたクルマは高級車の類ではありませんでしたのでその点では幸いでした。知人にバギーも手懸けている神奈川県の空冷VW専門店「K’s Collection」を紹介して貰い、メイヤーズ・マンクスかEMPI impのどちらかにするかで迷った挙句、ボディの小ささとフォルムが決め手となり、前者に決定、アメリカから安価なレストア・ベースを輸入、レストアを前述のショップに委ねました。
バギーは基本的にカスタムカーですから、エンジンやマフラー、ホイール、タイヤのチョイスは全てオーナーの意志で決めて行くことが出来ます。逆に言うと自分の理想を明確にしておかないと納得のいくものにすることが出来ません。パフォーマンス重視か見た目重視か、全体を俯瞰しながら仔細な諸々を纏め上げていく楽しくも悩ましい作業です。
アメリカから輸入、K’s Collectionに到着した当時のマンクス・バギー。
■メイヤーズ・マンクスのレストア
輸入したレストア・ベースは1969年式のマンクスで、コンディションは良いとは言えませんでしたが、ボディのどこかがカットされていない点、シャシーが1962年のドイツ製で、2-3-4速がクロスしたミッションが付いている点など、良いところもありました。
レストアに当たっていろんな写真や当時の雑誌などを見て、自分の理想の完成形をイメージ、K’s Collectionさんと打ち合わせを重ねつつ、約1年間をかけて仕上げて頂きました。
私の理想はシンプルな初期のマンクスのアピアランスとディテールを備え、平均的なパフォーマンスを発揮しつつストリートで走行できるバギーであること、従ってタイヤ/ホイールは不整地用ではなく、ノスタルジックなストリートないしサーキット的な雰囲気を醸し出すチョイスとしました。
私はスロットカーで有名な「ビル・トーマス・チータ」と言うレーシングカーが大好きで、このチータのお約束であるアメリカン・レーシングの「トルク・スラスト」ホイールをバギーに組み合わせ、リアにはグッドイヤーの「ポリグラスGT」と言う1970年代初頭の人気タイヤの復刻版、フロントには細めのファイヤーストーンを合わせました。
ステアリング・ホイールはスーペリア、シフター/ノブはハースト。最も悩んだボディ色はデザイナーの友人にも相談しつつ、1970年初頭の人気色の1つであるソリッドの「バタースコッチ(バハマ・イエロー)」を選びました。
エルビス・プレスリーが映画 "Live a Little, Love a Little.(邦題:「バギー万歳」)"で乗り回していたマンクスのカラーにイメージが近いことも決めるポイントとなりました。
レストアに備えて分解されたマンクス・バギー。ひどい有様に見えるが、FRPボディにはクラックも無く、シャシーも汚いがサビがこの程度なら良い方だ。
■マンクス完成! そしてバギーのある生活
レストアが完了したマンクスは2017年12月に横浜で開催された恒例のムーンアイズ「ホットロッド・カスタムショー」にエントリー、当日はグラドルの「青海(うみ)」ちゃんがビキニ姿で盛り上げてくれたこともあり、アワードこそ頂けませんでしたが、友人たちも沢山集まってくれて大人気。
楽しい冬の1日となりました。その後は都内近郊、特に湘南エリアで休日ドライブを楽しんでいましたが、私は仕事と私事の都合で、毎月末1週間程度、郷里の富山に帰省していることもあり、富山の隣県、石川にある「千里浜なぎさドライブウェイ」をバギーで走ってみようと思い立ちました。
とは言ってもバギーで富山まで自走するだけでも結構な冒険。独りでは流石に辛いので、こういう愚行に好んで付き合ってくれる年下の友人にサポートをお願いし、2018年10月に自走にて富山まで高速ドライブ、その翌日に念願のビーチを走りました。
その後、現在は毎月末、仕事の合間にカントリードライブをゆったりと楽しんでいます。
マンクスは2017年暮れの「ホットロッド・カスタムショー」でのお披露目に合わせて完成。立ってくれているのはグラドルの「青海(うみ)」ちゃん。
2018年10月に自走で郷里・富山まで高速ドライブ、翌日隣県・石川の「千里浜なぎさドライブウェイ」を思い切り走りました!
冬のバギーは他人から見れば狂気の沙汰ですが、乾いた寒気や自然の風景を味わいながら走るカントリードライブは最高に気持ちが良いです。
■デイブ・ディールのこと
ところで私は、バギーはもちろん空冷VWのカートゥーン(漫画イラスト)で有名なDave Deal(デイブ・ディール)というアメリカのモーター系アーティストの作品が大好きです。
そもそも最初に触れた彼の作品はと言えば、先にご紹介した1970年代にレベル社が発売したディフォルメ・プラモデル・シリーズ「Deal’s Wheels(ディールス・ホイール)」ですが、出版社勤務の編集者時代には彼のインタビュー記事を3回ほどやったり、Tシャツを一緒に企画して出版社のECサイトで売ったりと言うお付き合いができるようになりました。
残念ながら彼は2009年に亡くなりましたが、現在私は彼の子息と契約を結び、彼の名前、ロゴマーク、アーカイヴを使用して商品開発する権利を有しています。2010年以降、先にも触れたビル・トーマス・チータをモチーフにした1/25ディフォルメ・キットや、チョロQサイズのキットや完成品、最近では彼のロゴマークを立体化したレジンキットやソフビなども制作・販売しています。
商品開発は大好きなのですが、売るのは滅法下手で赤字続き。しかしお好きな方には溜飲を下げて頂けるクオリティとセンスを自負しておりますので、是非一度私のブログやインスタグラムなどで商品をご覧くださいませ。新商品などの情報を地味ながらポツポツと発信しております。
●ホームページ→http://www.motor-psychology.jp/?cat=8
●インスタグラム→https://www.instagram.com/cheetaracha/
●ツイッター→https://twitter.com/cheetaracha
Deal’s Wheelsの現代の続編を目指して様々なモデルを作っています。特に大好きなビル・トーマス・チータをモチーフにしたモデルは大小スケールで展開、キットと完成品の両フォーマットで販売しています。
これはチョロQサイズのキットを組んだ完成見本。ボディはレジン、エンジン、ホイールなどはホワイトメタルで、エンジン・フードも開閉(脱着)可能。きちんと作ると素晴らしいモデルになります。完成品の製作も受け賜ります。
デイブ・ディールの有名なロゴマークを立体化したソフビも制作しました。最初に無塗装版を発売、現在は著名モデラー、畔蒜幸雄(あびるゆきお)氏が塗装を手懸けた「バタースコッチ」仕様を20体限定販売中です!
いつかは自分も乗っているメイヤーズ・マンクスをモチーフにしたディフォルメ・モデルを開発したいと考えています。1970年代にデイブとレベルがやっていますが、ホイール、タイヤ、エンジンなどを見直してみたいです。
■おまけ「愛しのアルファロメオ」
後編はすっかりバギーの話に終始しましたが、もちろん他にも好きなクルマはいろいろあります。普通のクルマの話も書いてね、という編集部からお達しがありましたので、少し書かせていただきます。
前編でご覧に入れた通り、私の最初の愛車はベレット1800GTでした。その後2代目ジェミニZZ“ハンドリング・バイ・ロータス(JT190)”後期型に乗り換えました。この変遷からもお分かりになるように基本的には小ぶりなハコが好きなのです。私見ですが2代目ジェミニZZは本当に名車だったと思います。
出版社勤務だった当時、著名ジャーナリストの方が富士スピードウェイでポルシェ959を走らせることになり、カメラマンを乗せた並走車が、いすゞからお借りしたハンドリング・バイ・ロータスでした。
運転した当時の編集長から感想を聞いたところ、タイヤのサイドウオールまで使いきれる素晴らしい足廻りのチューニングは正にロータスだ、と絶賛していました。
そんなわけで気に入って乗っていたのですが、ある日の首都高5号線で追い越された真っ赤なセダンに一瞬で心を奪われてしまいました。それがフィアット傘下に入る以前の純血アルファロメオ最後のFRベルリーナ、アルファ75TSだったのです。
大ヒットした次代155に比べて75は都内でも殆ど見かけない珍しい存在でした。ジェミニZZを売り、ローンを組んで2年落ちの75TS後期型を手に入れ、初めて環八に乗り出した時の緊張と喜びは忘れられません。
このクルマは複雑に折れ曲がったハイデッキのボディスタイルの強烈な個性は無論、メカニズムが非常に魅力的なのです。腰から下は1960年代から変わらぬブロックを当時最新の電子デバイスでチューニングしたツインスパーク・エンジン。そのカンフルを打たれた心臓は、古くは戦前のティーポ158に由来する、アルフェッタ譲りのデフ一体式トランスアクスルと長いプロペラシャフトで連結されています。
これは前後重量配分の最適化を意図したもの。更にフロントには縦置きトーションバー、リアにはド・ディオン・アクスル+インボード・ディスク・ブレーキという形式の踏襲も、1970年代のGPシーンで1つのトレンドであったバネ下重量の軽減による運動性能の最適化をもオーバーラップさせる凝ったメカニズムでした。
そして何と言っても素晴らしいのは、これらメカニズムの恩恵が運転の下手な素人の私にも体感できた、ということです。その乗り心地は空中を滑るように軽快なものでした。アルフェッタやジュリエッタ時代には無かったパワーステアリングを装備していましたが、TSエンジンは低回転域ではトルクが細く、バブル期の渋滞した都内で巧く運転するには慣れが必要でした。
しかし美点も欠点も、伝統の機構をなんとか現代に適合させるべく纏め上げられた75というクルマの成り立ち故の味わいであり、どこか古くて新しい、本当に不思議な魅力に溢れたクルマだったと懐かしく思い出します。
同じく75TSに乗っていた知人がいますが、彼も75の話をする時は、何故か今回の私の文章と同じような、愛しげなトーンになるのです。もちろん当時のイタリア車ですから、それなりにトラブルも経験しましたが、自分にとっては正に本当に愛しいアルファロメオでした。
古くなってからではなく、現役当時に乗れたことが幸運だったと思っています。さて、前編・後編と私のくどい文章にお付き合いくださり誠に有難うございました!
ここらで次回のバトンを、ネコ・パブリッシング時代からの仲間、元カー・マガジン編集部、石黒智樹氏に渡したいと思います!