フリーランス編集者・ライターの山田剛久(やまだ たけひさ)と申します。1962(昭和37)年生まれで、今年で57歳になりました。一昔前のサラリーマンなら定年退職して隠居する歳ですが、好きな仕事を選んだ因果か、こんな歳になってもやっている仕事は20年前とあまり変わらず、現在も老体に鞭打つ毎日です。仕事兼趣味の自動車や模型などの話を綴らせて頂きます。
筆者のゴーカート・コレクション。
■幼少期の思い出
私は北陸の富山県の生まれです。実家は富山市街地のほぼ中心にあり、国道41号線という片道3車線の太い道に面していました。幼い頃の私はこの国道脇の歩道で三輪車や自転車に乗って遊び、眼前を駆け抜けていく様々なクルマを見ながら育ちました。自動車好きになった要因はこの環境が一番大きかったと思います。
地方都市ですから大都市圏のように洒落た外国車などは滅多に見ませんでしたが、近所にはダットサンの修理工場と「富タク」という当地で最大シェアを誇るタクシー会社の配車場がありました。修理工場に遊びに行っては廃タイヤを貰い、T40系のタクシーを観察してはスタンダード・グレードの渋さを子供心に感じたりしていました。この時期に最も好きだったクルマはフォルクスワーゲンで、タイプ1(ビートル)もタイプ2も好きでした。国産車ならベレットGTやフロンテのカタチが気に入っていました。
1988年、初めて自分で買ったクルマは1972年式いすゞベレット1800GTでした。
■ミニチュアカーやプラモデル
そしてご多分に漏れず、当時1台150円だったレズニー社のマッチボックスを筆頭に、クリスマスや誕生日などに買って貰えるコーギー、ディンキー、ソリド、テクノ、リオ、メーべ、ポリトーイなどの高価な舶来のミニチュアカーを宝物にしていました。工作好きだった父親と一緒にプラモデルも随分作りました。またこの頃、スロット・レーシングの大ブームがあり、富山市街地にも営業コースが出来ましたので、何度か連れて行って貰った記憶があります。
■ミニドライブとインディ500
ところで自分とクルマの歴史を遡る時、間違いなく自分の核として今も気持ちの中央にあるのは、初めて握ったステアリング・ホイールのことです。そのステアリングはクルマではなく、「ミニドライブ」というアーケード・ゲームに着いていたものでした。ガラス越しのロール紙に描かれたクネクネ道に沿って走る模型のクルマが道筋から外れないようにステアリングを操作するだけの単純な遊びです。使われていた模型の車は1/24スケールぐらいで、前輪の舵角が視認しやすいようにジープやフォーミュラカーなどでした。この「ミニドライブ」ゲームで初体験したステアリング操作の感動は今でも自分の原点かと思います。「ミニドライブ」を製造していたのは「関西精機」という会社で、同社の次作はスクリーン投影式のレーシングゲーム「インディ500」でした。インディ500にはウッド・ステアリングが着いていましたので、自分のウッド・ステアリング初体験も関西精機のゲームによるものとなりました。
成人してから自動車関係の出版社に転職、自動車模型専門誌の編集部配属となり、故・小森康弘氏とお知り合いになれましたが、なんと小森さんは関西精機の古川社長と共にミニドライブやインディ500の開発に貢献された方で、開発にまつわるお話を色々お聞きできて感激したことが昨日のことのようです。
幼少期に大好きだったアーケード・ゲーム、「ミニドライブ」と「インディ500」。最初に握ったステアリングはこれらゲームのものだった。
■ゴーカートの衝撃
アーケード・ゲームと同時期の重要な体験がもう1つあります。それはゴーカートです。ゴーカートは1959年頃にアメリカ西海岸で発祥、サンデー・モータースポーツとして大ブームとなり、ヨーロッパにも飛び火して本格的なレースが行われるようになりました。このブームは日本にも波及しましたが、少なくとも1960年代においてはモータースポーツよりも遊園地の遊具として人気を呼ぶことになります。
しかし私は当時4〜5歳、遊具といえども子供にとっては初めてのクルマです。ゴーカート場には排気ガスの匂いが立ち込め、野蛮なエンジン音が鳴り響いていました。ドキドキの鼓動を感じながら列に着き、いよいよ自分の番。低いシートにお尻を下ろすや、半ズボンでむき出しの太腿に、陽光で焼けた黒いビニールシートがジワっと熱かったことを覚えています。黒いゴム巻きのステアリング・ホイールは重く、アクセルもブレーキもファジーなレスポンス、それは子供向けではあったけど紛れもなく自分の意志で御さなければならないマシーンでした。
そして機械を操縦することで得られるスピードとオープンエアの悦楽がそこにはあり、シンプル極まりないそのアピアランスも自分にとっては極めて魅力的なものに感じられました。このゴーカート体験こそ、自分が趣味のクルマに求める根幹を決定づけたと考えています。
1960年代にアメリカで発売されていた、様々なアクティビティを子供に向けて紹介するフォトブック・シリーズの「ゴーカート」特集表紙。Ed Radlauer著。
■ゴーカートのミニチュアをコレクション
そんなわけで私は1960年代のゴーカートや初期のレーシングカートに今でも強い憧憬を抱いており、当時それらを題材に製造されたミニチュアカーや模型をコレクションの対象としています。私のミニチュアカー・コレクションの基本方針は、実車と同じ年代に製造されたものに限定するということです。古いものはディテールが甘かったり、模型として見ると辻褄が合っていない部分もあったりしますが、そこにまた時代の空気が反映されていると思います。
ここからは私のゴーカート・コレクションをご覧に入れましょう。
ACTION MAN GO KART●PALITOY 1/6
イギリスの「パリトイ」が「GIジョー」の欧州版である「アクション・マン」用に発売したゴーカートです。元来の発売形態は組み立てキットで、スケールはGIジョー・サイズですから約1/6。単一乾電池2本で走行するモーターライズのリモコン・モデルで、ドライバーの腕とステアリングは連動します。
FOX GO-BOY CART●HAWK 1/10
アメリカのホーク社が発売していたプラモデルで、FOX GO-BOY CARTという子供向けに販売されていたゴーカートを題材にしています。単三電池2本で走行するモーターライズ。ジャンクを入手してレストアし、当時のアメリカの乾電池のグラフィックをコピーして現代の乾電池に貼り付けて搭載しました。
CUB-KART●HERKIMER 1/10
こちらはグロー・エンジン動力のフリー走行モデル。エンジンをかけたらあとは燃料が切れるまで操縦不能なので、紐で結んで円周上を走らせたりする所謂“Tether Car”です。メーカーは“OK”の銘柄で知られるニューヨークのハーキマー社。エンジンは自社製の.024cc。箱絵のデザインも魅力的です。
GO KART●SCALEXTRIC 1/24
スロット・レーシング玩具の元祖であるイギリスの「スケーレクストリック」のゴーカートです。当時のスケーレクストリックは基本的に1/32スケールでレーシングカー中心の膨大なラインナップを形成していました。ゴーカートは小ぶりですが人形のサイズからスケールは1/24程度だと思います。
GO CART●FLEISCHMANN 1/16
ドイツのスロット・レーシング・メーカー、「フレイッシュマン」のモデル。ヨーロッパでレーシングカートが隆盛を極めた1960年代末頃の製品だと思います。往年の西ドイツ製品だけあってエンジンや足廻りなど、ディテールの良いモデルです。日本人の感覚からは人形の瞳孔の開きっぷりが少し怖い…。
GO CART SET●FLEISCHMANN 1/16
カート2台を主役にした「フレイッシュマン」のセット。片方には少女フィギュアが乗っています。’60年代半ば、カートのヨーロッパ選手権では若きロニー・ピーターソンがスターでしたが、イタリアの天才少女=スージー・ラガネリも人気者でした。少女バージョンをリリースした理由はそこかも知れません。
ゴーカート●童友社1/12
ゴーカートを本格的なスロットカーキットの題材として考えると、1/24や1/32スケールでは車体が小さすぎるため、現実的とは言えません。それでも童友社が発売した事実からは当時のゴーカートの人気ぶりが伺えますが、人形のサイズからスケールは1/12程度と思われます。1965年発売。当時の価格は900円。
カーレル MK-ⅢX●万年社1/14
模型の塗装に使う筆、塗料皿、マスキングテープで知られる万年社が1970年代半ばに発売したレーシングカートのプラモデル。同社のプラモデルは他に知られておらず、いきなりカートのプラモを発売した理由もわかりません。真面目にディテール再現もなされたキットでゴム動力で走ります。
カーレル MK-ⅢX●万年社1/14 改造
先にご紹介した万年社のカーレルをスロットカーに改造した例です。FT16モーターを両軸にして左右後輪を駆動しています。ステアリングが失われており、タイヤも硬化していますが、少し直して走らせてみたいと思っています。
GO KART BABY●MIGNON MODEL 1/24
イタリアのミニオン社のアルミダイヤスト製モデル。エンジンはダイキャスト、タイヤ、ステアリングコンポーネンツはゴム製です。エンジン、ホイール、ステアリングシャフトのシルバーは塗装によるものです。1960年。
GO KART MIDGET●FRENCH DINKY 1/43
メカノ社のディンキーのフランス製ラインナップの1つ。1962年に発売されたミジェット・カートです。全長3cmほどのとても可愛らしい出来の良いモデル。人形のサイズから見て、1/43程度と考えて正解だと思います。
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私とクルマの関係性を決定づけた幼少期のゴーカートと出会い。そして今でも憧憬を捨て切れず、収集してきたゴーカートのミニチュア・コレクションをご覧頂きました。アメリカでは1960年代のゴーカートのレストアやレースは趣味のカテゴリとして存在しているようですが日本では難しそうです。自分が本当に欲しいのは、子供の時に遊園地で乗った国産の遊具のゴーカートなのでしょう。それは最早不可能な夢ですが、ささやかなコレクションと懐かしい想い出だけで今の私には充分です。後編では幼少時からのもう1つの私の核、デューンバギーのお話をお届けしたいと思います。それではまた。