カートイワークス グランプリ

【第1戦 カートイワークス グランプリ】北沢剛司様(後編)

フランス車のミニカーについて(後編)

 

前編はこちらです

未完に終わったフランス車オーナーへの道

フリーランスのライターとして自動車専門誌や一般誌で執筆をしながら、輸入車関係の仕事などを手がけるようになり、収入も安定するようになりました。そうなると、ミニカーだけでなく、実車が欲しくなるもの。一時は中古のマセラティ・ビトゥルボに乗っていました。そのクルマは残念ながらエンジンブローによりお亡くなりになったため、次のクルマを探すことにしました。

そのとき、真っ先に候補に上がったのは「シトロエン XM」。この車は1989年に登場したシトロエンの最高級モデルで、カロッツェリア・ベルトーネによるウェッジシェイプの強いスタイリングがなんとも先進的でした。足回りには、油圧を使ったシトロエン伝統の「ハイドロニューマティック」の進化版である「ハイドラクティブ」を採用。定評のある乗り心地の良さをさらに高めたものでした。


※写真は1/43スケールのノレブ製シトロエン XM」。1994年に登場した後期型を製品化しています。

ただ、中古車としてこのクルマを買うのは、なかなかハードルが高いのも事実。この時代のシトロエンにはマイナートラブルがつきもので、油圧の配管が切れて車両全体が機能しなくなり、走行不能になるなどの話をよく聞かされました。さらに「シトロエン XM」には電子制御が加わるため、故障因子がさらに増えるというおまけも。ある意味、いわく付きのクルマなので、中古車価格も30万円程度からから200万円超までピンキリでした。試乗もしてみたものの、結局はそんなハードルの高さに恐れをなして購入を断念。結果的に、1/43スケールのミニカーだけが我が家に納車されました。

次にフランス車を買うモードになったのは、「プジョー 406 クーペ」の認定中古車を見つけたときでした。このクルマは、フェラーリのデザインを長年手がけてきたカロッツェリアの「ピニンファリーナ」がデザインを担当。美しいスタイリングと、「ルガノグリーン」というエメラルドグリーンの上品なボディカラーに惹かれ、実車を見に行きました。


※1/43スケールのミニチャンプス製プジョー 406 クーペ」。後期型では顔つきがアグレッシブになるため、私は写真の前期型に絞って物件探しを行なっていました。

しかし、そのときは結婚したばかりで、資金的な余裕もなかったことから購入を断念。実車購入を夢見て1/64スケールから1/18スケールまで数多く買い揃えたミニカー達も、特に日の目を見ないまま段ボールの中に収められました。


3度目の正直でグループB車両を購入

何度も浮かんでは消えて行ったフランス車オーナーへの道。もう縁はないかと思っていたところ、少年時代に夢中になったラリーカーのグループB車両が日本に初上陸したことを知り、居ても立ってもいられなくなりました

その車両は、「シトロエン BX 4TC1985年に発表されたこのモデルは、シトロエンWRC(世界ラリー選手権)に参戦するために製作したもの。当時のグループB規定では200台の規定生産台数が設けられていましたが、この車両は正確な生産台数が不明。世界に現存している数も数十台といわれ、ミステリアスな存在なのです

そしてこのシトロエンは、'80年代半ばに自分が初めて購入したマジョレット製ミニカーの車種そのもの。ミニカー購入から20年後に、実物を入手する機会が訪れたのです。


シトロエン BX 4TCのミニカーコレクション。手前右側は1/43スケールのユニバーサルホビー製品で、奥が1/18スケールのOttomobile製品。手前にあるディフォルメモデルは、「チョロQ」をベースにしたワンオフ作品。ネットオークションで偶然発見して、落札したものです。出品者の方と連絡を取り合ったところ、なんと私のクルマが載っている雑誌やDVDなどを資料にして製作したとのこと。運命的な出来事に驚きました

日本に初上陸した車両は嫁ぎ先が決まっていたため、フランスにある別の車両をお取り寄せすることにしました。実車を見た経験もないので、自分のクルマが初めて見る経験になります。その感覚はもはや1/1スケールのミニカーで、自分のミニカーコレクションの延長線上に実車があるようなイメージでした。その証拠に、購入後の整備のことなど、ほとんど考えていませんでした。「買えばなんとかなるだろう」という気持ちで決断したので、不思議と迷いや不安はありませんでした。


徹底した合理主義がフランス車の魅力

実際にクルマを所有して分かったのは、フランスの合理的な思想から生まれたユニークな設計。例えば、WRCで勝つために開発された車両の割に、意外と快適志向の乗り味だったりします。内装についても、メーターパネルを除けばシトロエン BXのスポーツモデルとなんら変わりありません。また、エンジンや足回りなどの部品も、プジョー・シトロエングループ内で流用できそうな部品を可能な限り集めてきたような強引な設計が目につきます。

これらが意味するところは、市販モデルについては規定生産台数をこなすためカタチになっていればよく、あくまでもメインは競技用車両という考え方です。開発期間も使える予算も限られたなかで目的を達成するには、一番大事なことにリソースを集中させるのが効果的といえます。

その一方で、スタイリングはとても個性的で、独特の迫力を感じさせます。自分独自のライフスタイルを楽しみたい人たちにとって、そんなフランス車の個性は、ほかには代えられない魅力なのです。


フランス車の中でも、特にシトロエンは昔から技術的にもデザイン的にも独自路線を貫いていて、強烈なアイデンティティを備えています。写真はミニチャンプス製の1/43ミニカーで、左はシトロエン CX ブレーク、右がシトロエン SMです。なかでもシトロエン SMのデザインは、小学生時代にはまったく理解することができず、トミカを買うことすら考えませんでした。でも、今見るとなんとも不思議なスタイリングで、とても興味深い存在です。大人になって初めて理解できるデザインもあるのでしょうね。


フランス車ミニカーの魅力とは?

フランス車のミニカーは、個性豊かなフランス車の姿を家の中でいつでも眺められるアイテムです。「どうしたらこんなスタイリングのクルマがつくれるのだろう?」と思いながら、いろいろな角度から自由に鑑賞するのが楽しかったりします。フランス車は一台一台が個性的なので、ユニークなスタイリングに惹かれてミニカーを買っていたら、いつのまにかフランス車だけで結構な数のミニカーを買ってしまったという人も少なくありません。ある意味、ハマりやすいコレクターズアイテムともいえるでしょう。

私自身、フランス車グループB車両のオーナーとなったことで、ミニカー趣味も加速したように思えます。その象徴といえるのが、この1/8スケールの自動車模型です。

これは海外の出版社である「Altaya」が2015年にフランスなどで発売した1/8スケールの『Renault 5 Maxi Turbo』です。グループBの模型としては過去最大の大きさで、全110号のキットで構成。完成時の全長は46.6cm、高さは18cmにも達します。もちろん日本では取り扱いのない商品で、海外オークションで入手しました。

このキットはフランスの出品者からまとめて購入したのですが、全110号分を収めた段ボールの巨大さは想像を絶するものでした。実は組み立ててはまだ数号分しか進んでいませんが、いつの日か完成させようと思っています。

このように突き詰めるとどこまでも深掘りできてしまうのが、フランス車ミニカーの魅力であり、魔力でもあります。機会があれば、フランス車ミニカーの世界を体験してみてください

北沢 剛司

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モータージャーナリスト 北沢剛司
トミカと同じ1970年生まれ。幼少期にトミカとスーパーカーブームの洗礼を受けた自動車ライター。ミニカーやカタログ収集のみならず、実車のグループBカーもコレクションしてしまった生粋のコレクターとしても知られる
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