フランス車のミニカーについて(前編)
はじめまして。私はクルマのライターをしている北沢剛司(きたざわこうじ)と申します。今回、リレーブログの初回という大役を任され、「フランス車のミニカー」について書くことになりました。
ひとくちに「フランス車のミニカー」といっても、その対象は膨大です。その対象となる車種は、第二次大戦前のクラシックカーからフォーミュラEのレーシングマシンまで100年あまりにわたります。もちろん、最新作からヴィンテージ物まで、これまでさまざまなミニカーが製品化されているのはいうまでもありません。
そこで今回は、「自分とフランス車およびフランス車ミニカーとのつながり」というテーマで語ることにしました。自分が小学生時代に初めて購入したフランス車のミニカーから、30代後半にして初めて購入した実車のシトロエンに至るまで、フランス車とフランス車ミニカーの歴史を振り返ってみたいと思います。
最初の出会いはトミカ
1970年生まれの私にとって、同年に発売開始されたトミカは、常に人生に寄り添ってきた存在でした。出会いのきっかけは、幼少時代にトミカを売っているお店が近所にあったこと。自力で歩けるようになると、いつの間にか家を脱出。そのお店のショーケースに顔をくっつけて、ずっとトミカを眺めているのが日常茶飯事でした。
その後、小学生時代には、池沢さとし先生の漫画『サーキットの狼』をきっかけとする「スーパーカーブーム」が到来。そのブームと同時期にトミカに加わったのが、「トミカ外国車シリーズ」です。このシリーズは、それまで国産車しか知らなかった私にとって、外国車を知る一大転機となりました。ただ、当時はスーパーカーやアメリカ車のような派手なクルマが好きで、比較的地味な存在のフランス車には目が行きませんでした。
そんな私がフランス車に興味を持つきっかけとなったのが、1978年にデビューした「ルノー 5 ターボ」です。WRC(世界ラリー選手権)に出場するため、コンパクトカーである「ルノー 5」の後席部分に排気量1.4リッターのターボエンジンを搭載。ミッドシップレイアウトを実現した怪物マシンで、モンテカルロ・ラリーなどで優勝しました。私にとってこのモデルは、それまで興味の対象外だったモータースポーツに目を向けるきっかけともなりました。こうしてクルマに対する興味の対象が一気に拡大していったのです。
※写真のトミカは、左が商用車の「ルノー 4 フルゴネット」で、右が「ルノー 5 ターボ」。これらは小学生時代に購入した初めてのフランス車ミニカーです。同時期の「トミカ外国車シリーズ」にはシトロエンもあり、「2CV」「SM」「Hトラック」も製品化されていました。しかし、小学生時代の私にとって、それらのデザインはあまりにも奇異に映り、まったく食指が動きませんでした。
グループBラリーカーへの興味
ちょうど私がラリーに興味を持った頃に、大きな盛り上がりを見せていたのがWRCです。1983年に本格始動した「グループB」規定に沿ってつくられた、ミッドシップ2WDレイアウトのラリー専用マシン「ランチア 037 ラリー」と、フルタイム4WDでラリー界に革命をもたらした「アウディ・クワトロ」の一騎打ちに引き込まれました。さらに日産やトヨタもWRCに参戦するなど、当時のWRCは、F1以上の高い人気を見せていました。
※写真はシトロエンの「グループB」マシン、「シトロエン BX 4TC」。一見同じに見えるこの4台は、イクソ製の1/43スケールミニカーです。右上は「イクソ」ブランドとして販売された製品。左の2台は海外のミニカー付き冊子として販売されたもので、右下は日本のデアゴスティーニが発売した隔週刊『ラリーカーコレクション』。それぞれ細部が微妙に異なっているので、コレクターとしては全部集めるしかありません。
この「グループB」とは、連続した12ヶ月間に200台以上生産した車両に対して、出場資格を与える車両規定。生産台数のハードルを従来の半分に下げることで、WRCに参戦するメーカーを増やす目的で導入されました。しかし、規定生産台数20台のエボリューションモデル(進化モデル)がのちに認可されたことで、ベース車両とは大きくかけ離れたマシンでWRCを戦えるようになり開発競争が激化。400〜500馬力の強力なエンジンを搭載し、4輪駆動で豪快に大地を駆け抜けるラリーカーが続々登場しました。しかし、
「グループB」車両は、その過激なスペックゆえに重大事故が多発。1986年をもって廃止されたのでした。
初めてのフランス製ミニカー
当時の私はプラモデル製作に熱を入れていましたが、「グループB」車両のプラモデルは非常に少なく、代わりとしてミニカーを探し始めました。いろいろな店をまわり、百貨店でようやく見つけたのが、写真のマジョレット製ミニカーです。
※左が「シトロエン BX 4TC」、右が「シトロエン ヴィザ 1000 Pistes」で、サイズはトミカと同等です。マジョレットはフランスのメーカーのため、ほかのメーカーでは絶対に製品化しないようなフランスのグループB車両をリリースしていたのが特徴でした。
購入したミニカーはフランス製で、スタイリングも良好でした。ただ、シトロエン BX 4TCは、左のブリスターパック製品のようにバルーンタイヤのようなものが装着されていて、フェンダーから大きくはみ出していました。その姿がどうしても納得できなかったので、シトロエン ヴィザ 1000 Pistesの裏板のカシメを外し、両車のタイヤを入れ替えてしまいました。今となっては若気の至りというほかありません。
1/43ミニカーのコレクションを開始
久しぶりにミニカーを手にしたことで、再びトミカなどを買い集めるようになり、ミニカー趣味が復活。知識を蓄積していくうちに、1/43スケールがミニカーの世界的な標準スケールであることを知り、以降は1/43ミニカーを中心に集めるようになりました。
当時購入した1/43ミニカーのフランス車は、プジョー 205 T16とルノー 5 ターボ。どちらもラリーで活躍した車両のため、プラモデルに比べて製品自体も多く、コレクションの楽しさにハマっていきました。
しかし、'80年代中頃のレースカーのミニカーは、ボディカラーが白一色、青一色などに塗られているだけで、デカールが付属しているのが普通でした。いわば、セミアッセンブルキットのような内容で、デカールを貼る作業は自分で行う必要がありました。プラモデル製作に慣れた人なら問題ありませんが、そうでない場合はデカール貼りで失敗するリスクがあったのです。
※こちらはフランスのソリドが発売していた1/43スケールの「ルノー 5 Maxi ターボ」。カーナンバーと一部のロゴ以外は省略されたシンプルな構成です。
※ボディ左側面は、印刷が完全に省略されています。奥に見える完成見本の写真を参考に、自分でデカールを貼るというワイルドな製品内容でした。興味深いのは、パッケージでは表側となる右側面には一部印刷が施されていること。これは外から見える部分にのみ装飾をして、見えない部分には手を抜くという、フランス的合理主義が体現されたもの。こんな不完全な製品を普通にリリースしてしまうセンスは、日本人には到底理解できないでしょう。
ミニカーショップでのアルバイト体験
日本がバブルに酔いしれていた頃、私は路線バスや観光バスの写真を撮ったり、ミニカーを集めたりするバスマニアとして活動していました。そして、趣味で行なっていたバス専門誌への記事投稿がきっかけとなり、クルマや鉄道の書籍を製作する編集プロダクションで働きはじめました。すると、輸入車の月刊誌で連載していたホビー記事をいきなり任されることになり、プラモデルの製作記事やミニカーの新製品紹介などを行うようになりました。
バブル崩壊後、会社の経営が厳しくなったこともあり、その会社を退社。その後、一時的に「フリーランス」という名の半無職状態となりました。時間だけはあるので都内のミニカーショップをまわっていたところ、以前、月刊誌の連載記事の中で紹介した某ミニカーショップの常連客となり、やがて店長さんに頼まれてお店の手伝いをするようになりました。
※シトロエンのオフィシャルミニカーとして販売されるノレブ製の3インチミニカー。大きさは70mm前後で、1/64スケールとほぼ同等のサイズ。写真の「シトロエン DS」のような旧車から最新モデルまで、さまざまなモデルが発売されています。価格も500円前後で、非常にリーズナブル。
新製品の検品・陳列、通信販売の対応、新製品の発注など、いろいろな業務を行う中で分かったのは、そのショップではフランス車とマツダのミニカーがよく売れるということでした。
両者のお客さんに共通していたのは、どちらも本物のクルマ好きが多かったということ。クルマに対する深い愛情と豊かな知識、旺盛な探究心、モノに対するこだわり、そしてコレクター気質などなど。その属性が驚くほど似ていたのです。
そう考えると、かつてマツダがユーノス店を立ち上げ、マツダ車とシトロエンを一緒に販売したことは、実は理想的なペアだったのかも知れません。しかし最大の問題は、両者ともニッチなブランド同士であり、最初から拡販が見込めなかったということでしょうか。
フランス車好きはミニカー好き?
ところで、このミニカーショップでは、毎年「フレンチブルーミーティング」というイベントに出店していました。毎年秋に長野県の車山高原で開催されるこのイベントは、日本全国からフランス車好きの人たちが集まる、フランス車最大のイベント。現在は約3000台・7000人あまりが参加するフランスのお祭りに成長しています。
※「フレンチブルーミーティング」に行った際、独ダイムラーのブランドである「スマート」が展示されている姿を見たことがあります。一瞬、「フランス車の集まりになぜドイツ車で来るのだ!」と思いましたが、実は「スマート」の生産工場はフランスにあり、その意味ではフランス車ともいえるのです。写真は1/87スケールのブッシュ製「スマートタワー」。海外の「スマート」ディーラーで実際に建設された、プロモーション用タワーを製品化したもの。7段×4面で計28台の1/87ミニカーがディスプレイできるつくりになっています。
「フレンチブルーミーティング」には、実車パーツ、書籍類、ファッション、グルメなど、フランスに関係するさまざまなショップが出店しています。なかでもミニカーは昔から人気があり、私が手伝いに行ったときも、早朝の開店準備中にどんどん商品が売れてしまうことが珍しくありませんでした。これはフランス車以外のイベントでは考えられないこと。フランス車濃度が高いオーナーさんであればあるほど、ミニカーも大好きという傾向があります。フランス車オーナーは物事にこだわりのある方が多いので、ミニカーの精巧なつくりが、こだわり心を刺激するのではないでしょうか。
北沢 剛司
後編に続く